「ウォール街が入ってくればHYPEは上がる」という話と、「規制当局に潰される」という話が、同じ週に並んで流れてくることがあります。この記事が追うのは、2026年に伝統的な金融機関が実際に何をしたのかという事実です。

前回はDEX同士の順位を扱いました。2026年5月15日、米国の大手取引所グループ2社が規制当局にHyperliquidの精査を求めました。その7日後、うち1社は自社の原油指標を海外の暗号資産取引所の無期限先物にライセンス供与しています。

価格の行き先を占う記事ではなく、報道の主語を分解する記事です。取引に伴う元本割れのリスクは、記事の最後にまとめて記します。

2026年5月:精査の要請と、その7日後

5月15日:2社が当局と議会に精査を求めた

Bloombergは2026年5月15日、米先物取引所大手のCMEとICE(ニューヨーク証券取引所の親会社)が米商品先物取引委員会(CFTC)と議会にHyperliquidの精査を求めたと報じました。主張は3点です。無期限先物(perp。満期日がなく、資金調達率で価格を現物に近づける契約)の市場が石油市場に波及させるリスク、石油ベンチマーク(値決めの基準に使う価格指標)の歪み、匿名性の高い取引環境が許しうる価格操作や制裁の回避です。

同じ日に、Hyperliquid側も反論している

同じ5月15日、Hyperliquid Policy Centerも反論しています(The Block)。公開された取引は不正の抑止力になり当局の監視と検知を容易にすること、24時間取引が取引時間の断絶をなくすこと、米国法にブロックチェーン基盤のデリバティブ向け枠組みがないことの3点です。

同団体は2026年2月設立の非営利組織で、運営資金はHyper Foundationがステーキングを解除して拠出した100万HYPE、約2,800万ドル相当です。Hyperliquid側の当事者による政策活動です(詳細はB-39)。

5月22日:同じ1社が、自社の原油指標を暗号資産取引所に貸した

2026年5月22日、暗号資産取引所のOKXが、ICE BrentとICE WTIの価格を原資産とする無期限先物を発表しました。ICEが指標を出し、OKXが契約をホストします。ICE側から見れば、自社の指標を他社の商品に使わせるライセンス供与です。7日前の当局への要請と、この発表は、同じ会社から出ています。

5月27日:「NASDAQより大きい」の中身

2026年5月27日、証券会社Bernsteinが主催する会議で、ICEのJeffrey Sprecher CEOはHyperliquidを「NASDAQより大きい」と述べました(CoinDesk、5月29日)。比較しているのは1日の無期限先物の名目取引高(契約が参照する原資産の金額)です。同じ記事は、HYPEの時価総額を約151億ドル、NASDAQ市場を運営するNasdaq Inc.を約500億ドルと並べています。

同氏は規制当局に対し、「すでに起きていることを、なぜ我々には禁じるのか」と問いかけています(The Block)。

なぜ、取引所が閉まっている時間の板が要るのか

週末に原油の価格が決まった

JPMorganは2026年3月20日のレポートで、Hyperliquid上の原油契約が日次ピーク17億ドル、建玉(残っているポジションの総額)約3億ドルに達したとしました。2026年3月初めのイランを巡る事態が週末に起き、CMEのトレーダーは反応できず、板(注文が並ぶ一覧)が開いていた場所で価格が決まりました。

既存の先物取引所は年間の相当な割合が閉場します(B-29)。この点はCME側も認めており、Terrence Duffy CEOは「リスクは、今日が何曜日かを知らない」と述べました(CoinDesk、2026年7月27日)。

限月がないので乗り換えが要らない

同レポートは、DEX(分散型取引所)の強みとして、売値と買値の差(スプレッド)が狭いことと、複数の建玉をまとめて1つの証拠金で管理できるポートフォリオ・マージンを挙げました。無期限先物には限月(契約の満期)がなく、期日ごとの乗り換えも生じません。

勝負は板より配信チャネル

伝統的な金融機関は、板そのものより、その先にある利用者数を見ているという読み方もできます。公表される利用者数は2026年時点で、OKXが1.2億人、米国の個人投資家向け証券アプリ大手Robinhoodが約2,800万人、南アフリカの暗号資産取引所VALRの登録ユーザーが190万人です。地域を問わずアクセスできる点も、経路の価値を押し上げます(米国の利用者が除かれる点は後述します)。

それでも「潰す側」も、自分が止められている

CMEがCFTCを提訴した

2026年6月18日、CMEはCFTCとMike Selig委員長を相手取り、米コロンビア特別区連邦地裁に提訴しました(事件番号1:26-cv-02157)。争点は無期限先物が先物なのかスワップなのかという分類です。

先物は決められた日に受け渡す契約、スワップは当事者間で支払いを交換する契約です。CMEは、無期限先物には受渡日がなく、資金調達率に基づく支払いの交換で、原資産の所有権も伴わないためスワップだとします。スワップと整理されれば、その契約を提供する事業者には、スワップディーラーとしての登録、自己資本の積み増し、当局への報告、証拠金の規制が課されます。税務上の扱いも変わります。

CMEは訴状で、CFTCの承認が既存の先物取引所に競争上の損害を与えたと主張しました。訴状の主張であり、裁判所の認定ではありません。2026年8月時点で判決はなく、係属中です。投資銀行TD CowenのJaret Seiberg氏はCMEに優位があるとみています。Hyperliquid Policy CenterのJake Chervinsky氏は米最大の取引所が自らの規制当局を攻撃するのは「きわめて異例だ」としています(いずれもCoinDesk、7月28日)。

「潰す側」の言い分は、投資家保護としては筋が通る

CMEのDuffy氏は2026年6月4日の会議で、サブプライム危機の前年になぞらえて「本当に2007年だと思う」と述べました(The Defiant)。論点はレバレッジで、海外の無期限先物の20倍から250倍を、CMEの規制下商品の約5倍と対比しています。日本の暗号資産証拠金取引は個人向け上限が2倍です(国内制度はB-41)。

そのCMEも、規制で止められた

2026年7月9日、CFTCのSelig委員長は、CMEが翌日に始める予定だった10バレル建てWTI原油先物の上場を差し止めました。枠組みの検討中に事前審査を経ず24時間商品を出す点が理由で、自己認証(取引所が自ら規則適合を宣言して上場する手続き)を「まったく不適切」としました(Crypto Briefing)。

一方で、同じCMEの24時間の金先物は止められず、7月26日からの週末に初の連続取引で名目約6,000万ドルが成立しました。差の背景としては、現物市場が既に24時間動く金と違って原油には受け渡し義務が絡む、という整理が解説側から示されています。CME自身も5月29日から24時間の暗号資産先物を始めています。

規制下の無期限先物が承認され、その週に取引所株が下げた

2026年5月29日、CFTCは登録取引所KalshiEXのBTCPERPを承認しました。米国の規制下では初です(枠組みはB-39)。翌週6月2日の米国市場では取引所株が下げ、下げ幅が最大のCboeは8%超でした(Yahoo Finance / Benzinga)。TD Cowenも同じ見立てでしたが、RBC Capital Marketsは脅威を「管理可能」とし、既存取引所には深い流動性と機関との関係があるとしています。

並べると、純粋な「潰す側」は見当たりません。最も強硬なCMEが同種の商品を作ろうとして止められ、指標を最も広く貸しているICEが精査を求めています。争点はHyperliquidの存否ではなく、規制の内側で誰が先に無期限先物を扱えるかという順番です。

主体別の行動一覧

本記事の調査範囲では、潰す側の行動が確認できたのはICEとCMEの2社だけです。乗る側の行動は5社で確認できます。

主体「乗る」側の行動
ICEBrent・WTIをOKXの無期限先物にライセンス供与(5/22)/OKXに出資/創業者と面会
CME24時間の暗号資産先物・オプションを開始(5/29)
Cboe最長10年の継続的な先物/既存先物の無期限化を検討中(6/23)
Robinhood欧州で自社の無期限先物(HYPEを含む)/Lighterと収益折半/CME商品の提供者
S&P GlobalS&P 500をHyperliquid上の無期限先物にライセンス(3/18)

日付は2026年です。並べているのは無期限先物全体への関与にあたります。

「乗る」の3つの型

前掲の表のうち、Hyperliquidに関わるものを3つの型に分けます。

①指標やブランドを貸す

2026年3月18日、S&P Dow Jones IndicesがS&P 500をTrade[XYZ](Hyperliquid上に市場を開設している事業者)にライセンス供与し、Hyperliquid上で無期限先物として提供されています。主要指数に基づく初の公式ライセンス無期限デリバティブだと同社は説明し、対象は米国外の適格投資家に限られます。ICEがOKXに原油指標を貸した例も同じ型です。

②執行だけ借りる

2026年7月2日、南アフリカの規制下の暗号資産取引所VALRが、Hyperliquidを裏側に使う200超の無期限先物市場を自社アプリで提供すると発表しました(開始は7月6日)。同社は、中央集権型取引所による直接統合の初の事例だとしています。

この型では、顧客との関係、口座の管理、規制上の登録を自社に残したまま、注文の付け合わせだけを外部から借ります。契約条件は非開示で、2026年8月時点で同じ形の2例目は確認できません。B-36のRobinhood WalletとLighterの統合も同じ型です。

③自社の商品として扱う

規制下のブローカーがHYPEの無期限先物を売る段階に来ています。2026年4月9日、Robinhood傘下のBitstampが欧州で暗号資産の無期限先物を一般提供しました。EUのMiFID II(金融商品市場指令)の下でレバレッジ上限は10倍、対象にHYPEが入っています。

予測市場のKalshiは、2026年6月9日にHYPEを参照する無期限先物をCFTCに申請しました。ただし申請の段階にとどまり、2026年8月時点で承認は確認できません。

機関のサイズは、まだ入らない

米国の利用者は直接アクセスできない

OCC(米通貨監督庁)認可の連邦銀行Anchorageは、2026年6月16日に「Hyperliquidへの直接アクセスは米国の参加者に提供されていない」と明記しています。本人確認(KYC)の仕組みを持たない設計のため、米国の規制下では直接の受け入れができません。機関の利用がカストディ(顧客資産を分別保管する業務)やプライムブローカー(機関投資家に決済や資金調達をまとめて提供する業者)経由になるのは、この制約ゆえです。

Anchorage社内での関連取引量は2026年5月に前月比300%超で伸びました。プライムブローカーのRipple Primeも2026年2月4日に対応を開始し、CMEの24時間暗号資産先物も支えています。

板の厚みには100倍以上の開きがある

調査会社のCastle Labsが2026年2月27日から3月16日に原油市場を実測しています(PANews経由)。中値の上下2bp(ベーシスポイントの略で、0.01%を1bpと数えます)で執行できる板の厚みは、CMEが1,900万ドル、Hyperliquidが15.2万ドルと約125倍の差です。100万ドルの注文のスリッページ(想定した価格からのずれ)は0.79bpと15.4bpで、約20倍開きます。

ただし1万ドル程度の注文では、Hyperliquid側のスリッページも0.77bpにとどまります。差が開くのは注文が大きくなってからです。取引サイズの中央値はCMEが90,450ドル(1ドル158円換算で約1,429万円)、Hyperliquidが543ドル(同じ換算で約8.6万円)でした。入らないのは、機関が動かすサイズのほうです。

24時間の板があっても、資金決済は週末に止まる

担保の移動、清算システム、資本の配賦は、いずれも平日を前提に組まれています(CoinDesk、2026年7月27日)。銀行間の資金決済は延長時間帯に動かず、CMEの24時間金先物でも週末の証拠金請求と決済にずれが残ります。

伝統資産の無期限先物全体では、首位ではない

コモディティ・株式・為替を参照する無期限先物では、シェアをBinance 62.7%、Hyperliquid 29.7%とする集計もあります(BitMEX、2026年第1四半期。4月9日公表)。株式の内訳はB-36で扱いました。

透明性は、機関が採用をためらう理由にもなる

2026年7月23日、運用資産が約57億ドルのFasanara Capitalが、Hyperliquid上で6,700万ドルのETHショートを持つと、ブロックチェーン分析会社Nansenのオンチェーン追跡から特定され、報じられました。取引が公開されることは、Hyperliquid Policy Centerが抑止力として挙げた性質と同じものです。当局が検知しやすいということは、他の参加者にも建玉と清算価格が読めるということでもあります。マーケットメイカー(常時売り買いの気配を出す業者)では、Wintermuteが76市場で名目約1.99億ドルの注文を出していたと、CoinSharesが2026年5月の報告で紹介しています(データは2026年1月時点の第三者分析。その後、規模を縮小したとの報道もあります)。ほかの大手業者の参加を示す公開資料は、本記事の調査範囲では確認できません。

位置づけが下がった発言と、日本の現在地

ICEの2026年7月30日の決算電話会議で、Sprecher氏は無期限先物を「レバレッジETFの競合と見ている」と述べました。レバレッジETFは、指数の変動率の数倍を目指す上場投資信託です。理由はヘッジに必要な先渡しの価格カーブがないことです。5月の「NASDAQより大きい」から2か月での変化です。

日本は別の段階にあります。日本の金融機関が海外のperp DEXに関与した公表事例は、2026年8月時点で確認できません。大阪取引所は2026年6月、ビットコイン先物の2028年上場を計画すると報じられ、大手証券各社が検討するのは暗号資産の投資信託です。制度面では2026年7月に金融商品取引法の改正が成立しています(中身はB-41)。

まとめ:同じ会社が、両方をやっている

要点を振り返ります。

この記事のまとめ

  • 精査を要請した2社のうち1社が、7日後に自社の原油指標を海外取引所の無期限先物へ供与
  • CMEはCFTCを提訴(2026年6月18日・係属中)しつつ、自社でも24時間の暗号資産先物を開始
  • 「乗る」型は3つ。指標を貸す、執行だけ借りる、自社の商品として扱う
  • 板の厚みはCMEの約125分の1、100万ドル注文のスリッページは約20倍(2026年2〜3月の外部実測)
  • 米国の利用者は直接アクセスできず、機関の利用はカストディやプライムブローカーを経由

同じICEの動きでも、報じられ方で価格の反応は逆になりました。2026年5月15日のロビイング報道の際にHYPEは下落して約44ドルで推移し(CoinDesk)、5月27日の発言の報道後には約10%上昇しています(Yahoo Finance / Benzinga)。「ウォール街」という主語のニュースは、どの会社がどの立場で何をしたのかに分けて読めば、相反する見出しの多くは矛盾ではなくなります。

結論の出ていない論点も残ります。CME対CFTCの訴訟は係属中で、分類に判断は示されていません。CFTCによるエネルギー系無期限先物の意見募集も、締切が2026年8月26日まで延長されています。どちらも、この記事の構図を書き換えうる位置にあります。次の記事では、HYPEそのものを買う仕組みとして、上場する投資商品と企業が財務で保有する動きを扱います。

本記事は情報提供を目的としたもので、投資助言ではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本割れの可能性があります。記載の数値は最終確認日(2026-08-13)のものです。

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