HYPEを持ったあとの使い道を調べはじめると、HyperEVM(Hyperliquid上でDeFiアプリが動く実行環境)のサービス名が次々に出てきます。ところが、名前を覚えてもあまり長持ちしません。2025年前半に代表格だったHyperSwapとKittenswapの預かり資産は大きく縮小し、2026年8月時点では後発のProject Xが上位に入っています。上位の顔ぶれは1年で入れ替わりました。

この記事に出てくる固有名も、1年後には別の名前になっている前提で読む必要があります。だから覚えるのは名前ではなく、役割です。サービスの数は多くても、役割で分ければ数種類に収まります。

この記事では、その分け方を4つの分類として示し、それぞれの利回りがどこから生まれ、どんなリスクを伴うのかを見ていきます。特定のプロトコルを推奨する記事ではありません。

HyperEVMのDeFiとは:HYPEを「使う」場所

HyperEVMは、Hyperliquidの取引所機能(HyperCore)と同じチェーン上で動くスマートコントラクトの実行環境です。仕組みはB-9で扱ったため、ここでは繰り返しません。本記事で見るのは、その上に載っているDeFi(分散型金融。管理者を介さず、スマートコントラクトのプログラムだけで動く金融サービス群)です。実務上の前提をひとつだけ挙げると、HyperEVM上の操作にはガス代としてごく少額のHYPEが必要になります。1回のガス代はごく小さい額ですが、HYPEの残高がゼロでは何も操作できません。

規模から確認します。外部集計サイトDefiLlama(掲載名義は「Hyperliquid L1」)によると、HyperEVM上のDeFiの預かり資産(TVL)は合計で約12.3〜12.7億ドル(約1,900〜2,000億円。2026年8月5日時点)です(1ドル=158円で換算。以下同じ)。幅があるのは集計方法により数字が変わるためです。同じ時期のperp(無期限先物)の日次出来高は約50億〜80億ドル(約0.8兆〜1.3兆円)で、資産を預かるDeFiの数倍の規模で取引が動いています。取引が主、DeFiが従。これが2026年8月時点のエコシステムの現在地です。

そのDeFiの中身は、役割で分けると次の4つに整理できます。

  • ①預けて増やす:ステーキングやレンディングで報酬・利息を得る
  • ②交換する:トークン同士を交換する
  • ③ドルを作る:HYPEなどを担保にドル建てトークンを発行する
  • ④任せる:運用そのものを委ねる

このほかに、まだ分類が固まっていない新興カテゴリもあります。なお、本記事に登場する数値はいずれも変動します。2026年8月上旬時点のスナップショットとして読み、判断の際は最新の値を確かめる前提でいてください。順に見ていく前に、このエコシステムで実際に何が起きてきたのかを先に確認します。

分類の前に:実際に起きた3件

HyperEVMがメインネットで動き始めてから約1年半の間に、資産被害を伴う事件が複数起きています。代表的な3件を、起きた順に確認します。

Hypervault(2025年9月・Vault系)。約360万ドル(約5.7億円)の持ち逃げ疑いのまま消滅しました(B-19)。

Hyperdrive(2025年9月・レンディング系)。スマートコントラクト起因の資金流出が起き、被害額は報道により約70〜78万ドル(約1.1〜1.2億円)と幅があります。

Purrlend(2026年4月・レンディング系)。約152万ドル(約2.4億円)の被害が発生し、マルチシグ(複数の署名を要する管理方式)の権限が奪われたことが原因と報じられています。3件のなかで、何が起きたかが最も具体的に語られている事例です。

共通項は、いずれも運用実績の浅い新興プロトコルだったことです。ただし、ここから「監査済みなら安全」という逆の結論は導けません。監査を掲げていたとされる例でも事故は起きており、監査は安全の保証ではありません

預けて増やす系:リキッドステーキングとレンディング

リキッドステーキング:ステーキングしながら動かせる

リキッドステーキング(LST)は、HYPEを預けると引換券にあたるトークン(以下、LSTトークン。例えばKinetiqではkHYPEという名称です)を受け取り、ステーキング報酬を得ながらそのLSTトークンをDeFiで使える仕組みです。通常のステーキングでは解除時に7日間の待機列(B-12)を経る必要がありますが、LSTトークンは市場で売却できるため、換金までの自由度が高くなります。その代わり、LSTトークンの市場価格がHYPEと常に一致する保証はない、という新しい前提を抱えることになります。

HyperEVM全体の預かり資産のうち、首位のKinetiq1社でおよそ7割を占めます(集計基準により多少の差はあります)。上位少数への集中が、このエコシステムの規模面での特徴です。

レンディング:預けて利息、借りて活用

レンディングは、資産を預けて貸出金利を受け取るか、資産を担保に別の資産を借りるサービスです。HyperEVMでは、ネイティブ(HyperEVM発)のHyperLendが約4.1億ドル(約650億円)、Ethereum発の大手Morphoが約2.6億ドル(約410億円)と、2つの大きな市場があります。後者のように外部チェーンの実績ある大手が進出してきた結果、「ネイティブ勢+外来大手」の二層構造になっている点は、サービスを見比べるときの判断材料になります。

名称が似ていますが、HyperEVM上のHyperLendと、当サイトのHyperLendingは別のサービスです。本記事で扱うのは前者です。

この分類の利回りの源泉は明確です。ステーキング報酬はチェーンの検証作業への対価、貸出金利は借り手が支払う利息です。同時に、どちらもスマートコントラクトリスク(プログラムの欠陥や管理権限の悪用で預けた資産を失うリスク)を常に伴います。預けた瞬間から、資産の安全はそのプログラムと運営体制に依存します。

交換する・ドルを作る・任せる系と、分類の外側

DEX:トークン同士を交換する場所

DEX(分散型取引所)は、トークン同士を交換する場所です。HyperCoreの板(注文を並べて突き合わせる方式)とは異なり、HyperEVM上のDEXの多くはAMM(自動マーケットメイカー。プールに預けられた資産の比率と数式で価格を決める方式)を採用しています。この分野は変化の激しさが際立ちます。冒頭でも触れたとおり、2025年前半に代表格だったHyperSwapやKittenswapは縮小し、いまはProject Xが上位です。参加の形は交換だけではなく、プールに資産を預けて取引手数料の分配を受ける流動性提供という立場もあります。この場合、預けた2種類の資産の比率が価格変動で自動的に組み替わるため、単に持ち続けた場合より価値が目減りすることがある、という独自の損失リスクを伴います。

CDP・ステーブルコイン:HYPEを担保にドルを作る

CDP(担保付債務ポジション)は、HYPEなどを担保として預け、ドル建てのステーブルコインを発行する仕組みです。例えばFelixというプロトコルでは、担保を預けてfeUSDというトークンを発行できます。発行したドル建てトークンは、レンディングへの預入などステーブル建ての運用に回すのが典型的な使い方で、利回りが出るとすれば、その回した先が源泉です。担保の価値が一定水準を下回ると清算(担保が強制的に処分される処理)の対象になるため、発行した後も担保の値動きから自由にはなれません。なお、公認ステーブルコインだったUSDHは償還専用フェーズに入っており、経緯はB-21で扱いました。

Vault系:運用を任せる

Vaultは、資産を預けて、あらかじめ定義された戦略での運用を委ねるサービスです。HyperEVM上には共通規格に基づく新世代のVaultが広がっていますが、これらはHyperliquid公式のVaultページに載るものとは別の枠組みです。

4分類の外側:まだ位置づけが固まっていないカテゴリ

4分類の外側では、オプション(あらかじめ決めた条件で売買する権利の取引)、デルタニュートラル運用(価格変動の影響を打ち消しながら金利収入を狙う運用)、RWA(現実資産のトークン化)といったカテゴリも育ちつつあります。本記事の4分類は最初に触れる範囲を対象としており、これらは含めていません。

4分類を概念表として整理します。個別の規模や利回りは変動が速いため、あえて入れていません。

分類何をする利回りの源泉主なリスク
預けて増やす(LST・レンディング)HYPE等を預けて報酬・利息を得るステーキング報酬・借り手の金利コントラクトの欠陥、LSTトークンの価格乖離
交換する(DEX)トークンを交換する。プールへの預入で手数料収入も取引手数料預けた資産の価格変動損、コントラクトの欠陥
ドルを作る(CDP)担保を預けてドル建てトークンを発行し、別の運用に回す発行したドルの運用先次第担保割れによる清算
任せる(Vault)資産を預けて運用を委任する戦略の運用成績運用の失敗、運営者の持ち逃げ

典型的な動線と「ループ」の危うさ

よくある動線:預けた資産が担保になり、また運用される

HYPE保有者の典型的な動線は、ここまでの分類を横断します。まずHYPEをリキッドステーキングに預けてLSTトークンを受け取ります(預けて増やす)。次に、そのLSTトークンをレンディングに担保として預け、貸出金利を上乗せするか、別の資産を借ります。借りた資産は、DEXへの流動性提供、Vaultへの預入、CDPでのドル発行など、さらに別の運用に回せます。ひとつの資産がLSTトークン・担保・運用元手と姿を変えながら、複数のサービスを渡り歩く構造です。

ループ戦略とは:借りて、また預ける繰り返し

この動線を意図的に繰り返すのがループ戦略です。担保を預けて借入を行い、借りた資産を再び担保として預け、また借りる。この繰り返しで元手以上の運用規模を作り、利回りを増幅する手法です。ループに特化したサービスが存在するほど、広く使われています。ただし、この繰り返しで増えるのは利回りだけではありません。

ループが同時に増やすもの:利回りだけではない

ループが増幅するのはリスクも同じです。

  • 清算:担保価値が下がったときの清算リスクは、繰り返した分だけ大きくなる
  • デペッグ:LSTトークンとHYPEの価格乖離が、それ自体清算の引き金になり得る
  • 金利急騰:借入金利は固定ではなく、急騰すれば利回りが逆転する
  • コントラクトリスク:経由するプロトコルの数だけスマートコントラクトリスクが重なる

高い利回りは、どこかでリスクを積み増した結果です。この原則は、HyperEVMに限らずDeFi全般に当てはまります。

HyperCoreとつながっていることの意味

HyperEVMのDeFiの特徴は、取引所であるHyperCoreと同じチェーン上で直結していることです(仕組みはB-9)。応用例は既に動いています。板の価格や流動性を参照するDeFi、CoreWriter(B-9)でステーキング操作を自動化するリキッドステーキング、perpでヘッジを組むデルタニュートラル型のVaultなどです。また、他チェーンのBTCなどをHyperliquidに持ち込むUnit(B-11)は、HyperEVMのDeFiにとって担保の供給源にもなっています。その後、HIP-3(独自のperp市場を展開できる枠組み)と、2026年5月にメインネット稼働したHIP-4(予測市場)が加わりました。これらの詳細は第6章の記事で扱います。取引の板とDeFiが同じ基盤で連動している点は、他チェーンのDeFiとの分かりやすい違いです。

リスク:若いエコシステムで起きてきたこと

集中と変化の速さ:上位の顔ぶれは1年で入れ替わる

構造面の注意点は2つあります。ひとつは集中です。預かり資産の大半は上位少数のプロトコルに集まっており、大手で障害が起きれば全体に波及しやすい構図です。規模の大きさと安全性が別の問題であることは、先の事件の節で見たとおりです。もうひとつは変化の速さです。先述のDEXの例のように、上位の顔ぶれは1年で入れ替わります。本記事の固有名も、時間の経過とともに古くなる前提で読む必要があります。

偽サイトと日本ユーザーの前提

公式を装う偽サイトは現実の脅威です。今回の調査でも、綴りを一部変えたタイポスクワット(正規ドメインに似せた偽ドメイン)とみられるサイトが検索結果に表示されることを確認しています。偽サイトに接続したウォレットで承認操作をすると、資産を抜き取られる可能性があります。検索結果や広告からはアクセスせず、公式Xや公式ドキュメントからたどったアドレスをブックマークして使うのが安全です。また、2026年8月時点で、国内の暗号資産交換業者によるHYPEの取扱いは確認されていません。DeFiでのスワップや報酬の受け取りは日本では課税イベントになり得るため、税務の扱いは税理士等に確認するのが前提です。税制の詳細はB-42で扱います。

まとめ:4分類と利回りの源泉を言えるかで見分ける

HyperEVMのDeFiを役割で分け、動線とリスクを確認しました。要点を振り返ります。

この記事のまとめ

  • HyperEVMのDeFiは預かり資産約12.3〜12.7億ドル規模。perp取引が主、DeFiが従の現在地(2026年8月時点)
  • 役割は「預けて増やす」「交換する」「ドルを作る」「任せる」の4分類でほぼ整理できる
  • 典型的な動線はHYPE→LSTトークン→担保→再運用。ループは利回りとリスクを同時に増幅する
  • 持ち逃げ・流出の事件は実際に起きており、監査は安全の保証ではない
  • 預かり資産は上位少数に集中し、顔ぶれは1年で入れ替わる

新しいサービスに触れる前に、そのサービスが4分類のどれにあたり、利回りの源泉が何かを自分の言葉で言えるかを確かめるのが現実的な使い方です。言えないものには近づかない、というのもひとつの選択肢です。DefiLlama(掲載名義は「Hyperliquid L1」)などの外部集計サイトで最新の顔ぶれを確かめる一手間が、この分類を古い情報のまま使わないための前提になります。次の記事では、外部アプリがHyperliquidの板に注文を取り次いで手数料を得る「ビルダーコード」の経済圏を扱います。

本記事は情報提供を目的としたもので、投資助言ではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本割れの可能性があります。記載の数値は最終確認日(2026-08-13)のものです。

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