HyperliquidのVaultページを開くと、一覧のいちばん上に「Hyperliquidity Provider(HLP)」があります。名前は見かけるものの、何をしているVaultなのかはよくわからない。この記事は、そんな方に向けて書いています。

先に要点を言えば、HLPは「預けておけば増える商品」ではなく、Hyperliquidという取引所の運営業務に、自分の資金ごと参加する仕組みです。

この記事では、預けたお金がどこへ行き、損益がどこから生まれるのかを順に見ていきます。画面のAPR(年率換算した利回り)の裏で何が起きているかがわかれば、預けるかどうかを判断する材料がそろいます。なお、HLPへの入金をすすめる記事ではありません。

HLPとは:Hyperliquid公式の「みんなで運用するVault」

そもそもVaultとは何か

Vaultは、複数のユーザーがUSDCを預け、まとめて運用してもらう仕組みです。運用の結果は、預けた金額の比率に応じて分配されます。1%を出した人は、利益の1%を受け取り、損失の1%を負担します。

最初に押さえておきたいのは、Vaultは銀行預金ではないということです。中身は運用なので、増えることもあれば減ることもあります。画面に表示される年率はあくまで過去の成績で、将来を約束する数字ではありません。

Hyperliquidには誰でもVaultを作れる仕組みがあり、個人トレーダーが運用するVaultも数多く並んでいます。そのなかでHLPだけは、性質の違う特別な存在です。

HLPは運営側が動かす「プロトコルVault」

HLPはHyperliquidの中核チームが運用するプロトコルVaultです。個人の腕に賭けるユーザーVaultとは違い、取引所が回り続けるために必要な業務そのものを担っています。

背景には、歴史の記事(B-2)で見たHyperliquidの設計思想があります。マーケットメイクや清算の引き受けは、従来の取引所では一部の専門業者だけが担い、その収益も彼らのものでした。Hyperliquidはこの仕事を一般ユーザーに開放し、誰でも資金を出して参加できるようにしました。それがHLPです。

預けた人の取り分:手数料ゼロ、損益は持分どおり

HLPには運用報酬も成功報酬もありません。稼いだ分は全額が預けた人に持分比率で分配され、損をすれば同じ比率で目減りします。個人が運用するユーザーVaultでは運用者が利益の10%を受け取りますが、HLPにその取り分はありません(ユーザーVaultの仕組みは次の記事で扱います)。

では、HLPは預かったUSDCで実際に何をしているのか。仕事は大きく2つあります。

HLPの中でお金は何をしているのか:2つの仕事

仕事① いつでも売り買いの相手になる(マーケットメイク)

マーケットメイクとは、板に買い注文と売り注文を常に出し続けることです。誰かが売りたいときには買い手として、買いたいときには売り手として、取引の相手になります。買値と売値のあいだにはわずかな差(スプレッド)があり、売買が成立するたびにこの差がマーケットメイカーの収入になります。

ただし、これはノーリスクの手数料商売ではありません。注文が約定した瞬間から、HLPはポジションを抱えます。相場が一方向に動き続ければ、抱えた在庫から損失が出ます。薄く広く稼ぎながら、常に相場変動のリスクを取っている仕事です。

公式の説明では、HLPは「複数のマーケットメイキング戦略」で運用されているとされ、統計ページ上ではStrategy A、Strategy Bといった子戦略に分かれています。ただし、その中身のロジックは公開されていません。この点は後のリスクの章で扱います。

仕事② ロスカットの受け皿になる(バックストップ清算)

ロスカットの記事(B-6)で見たとおり、Hyperliquidの清算は3層構造になっています。①板への成行注文 ②HLPが引き取り ③ADL(自動デレバレッジ)の順です。板への成行注文で処理しきれなかった破綻ポジションは、第2層でHLPが引き取ります。これがバックストップ清算です。

引き取りが行われるのは、有効証拠金がメンテナンスマージン(ポジションを維持するのに必要な最低限の証拠金の水準)の3分の2を下回っても、板での清算で処理しきれなかった場合です(B-6)。このときユーザーの維持証拠金は返還されず、ポジションとともにHLP側に引き継がれます。残った証拠金ごと引き継ぐため、平均的には市場価格より有利な条件でポジションを引き取れる設計です。引き取ったポジションをその後うまく処分できれば、有利に引き取った分がそのまま利益になります。逆に、処分する前に相場がさらに崩れれば、損失はHLPに残ります。市場が大きく荒れた日ほど忙しくなり、損益も大きく動く仕事です。

脇役の収入:ファンディングと手数料の一部

このほかに、perp(無期限先物)の保有ポジションに応じたファンディング(買い方と売り方が定期的にやりとりする調整金・B-5)の受け払いと、取引手数料の一部がHLPに入ります。

手数料については経緯があります。運用開始当初(手数料が導入された2023年6月からのおよそ2カ月間)は取引手数料のほぼすべてがHLPに入っていましたが、現在の手数料の主な行き先は、HYPEの買い戻しを行うAssistance Fundです。バイバックの記事(B-14)で見た手数料の流れのなかで、HLPは今も分配先のひとつであり続けているものの、その取り分は小さくなっています。

加えて、取引所本体であるHyperCoreの貸出機能(Earn)へUSDCを供給する役割も公式ドキュメントに記載されています。収益源であると同時に、貸倒れや引き出しの集中というリスク源でもあります。

HLPの預け入れと引き出しのルール

仕組みがわかったところで、預ける側から見たルールを確認します。覚えることは多くありません。

項目内容
預け入れUSDC建て。最低額の定めはなし
ロックアップ最後の入金から4日間は出金不可。追加入金のたびにリセット
引き出し4日経過後はいつでも可能。待ち行列はなし
手数料入金・出金・運用報酬のいずれもなし

HYPEステーキングの解除には7日の待機期間がありましたが、HLPのロックは最後の入金から4日で、経過後の出金は即時です。混同しやすいので分けて覚えておきましょう。なお、実際の入金操作の手順はこの記事では扱いません。仕組みの理解が先です。

データで見るHLPの実績:ふだんは薄く、荒れた日に大きく

これまでの成績:累積利益とTVL

HLPは2023年5月に運用を始め、以来3年あまりで累積約1.37億ドル(およそ215億円)の利益を積み上げてきました(1ドル=158円で換算。以下同じ)。運用期間を通じて見れば、大きな成功を収めてきたVaultだと言えます。

一方で、預かり資産(TVL)は減少が続いています。2025年9月の約6億ドルをピークに、2026年8月上旬時点では約2.2億ドル(およそ340億円)。ピークから6割以上減りました。成績の割に資金が離れているのはなぜか。答えはこの後の数字に表れています。

利回りはどう変わってきたか

運用初期の2023年から2024年にかけては、年率十数%〜20%前後で推移していた時期があったとされます。2025年には1桁台に下がり、2026年8月上旬時点で公式ページに表示される直近30日のAPRは0.34%。直近1カ月のリターンはほぼゼロです。

つまり、かつての「高利回りVault」の姿を想像して預けると、今の平常時の数字とは大きなギャップがあります。最新の利回りは必ず公式のVaultページで確認してください。

利益は「荒れた日」に集中している

では、HLPはもう稼げないのかというと、話はそう単純ではありません。過去の主要イベントとHLPの損益を並べてみます。

時期出来事HLPの損益
2025年3月ETH大口ポジションの清算操作約▲400万ドル
2025年3月JELLY事件(価格操作)一時▲1,000万ドル超 → 最終+約70万ドル
2025年10月市場全体の大暴落+約4,000万ドル
2025年11月POPCAT価格操作約▲490万ドル
2026年1月大口ETHロングの清算+約1,500万ドル

目を引くのは2025年10月です。市場全体で報告ベース約190億ドルという過去最大規模の清算が起きた局面で、HLPは清算の受け皿として約4,000万ドル(およそ63億円)を稼ぎ、預けていた人はおよそ2日で10%前後のリターンを得ました。2026年1月の大口清算と合わせると、この2つのイベントだけで生涯利益の約4割を占めます。

ここまでの数字を並べると、HLPの性格が見えてきます。ふだんは薄く稼ぎ、市場が荒れた日に損益がどちらかへ大きく振れる。清算処理がうまく回れば大きな利益になり、価格操作の標的にされれば損失が出る。そして、どちらの日が来るかは事前にわかりません。いつ預けていたかで、得られる体験がまったく違うVaultなのです。

HLPのリスク:損をするとしたら、何が起きたときか

中身が見えない:確認できるのは「結果」だけ

HLPの戦略は公開されていません。どんな判断で売買しているのかは、預けている本人にもわかりません。ポジションと損益はすべてオンチェーンで確認できるため、結果の透明性は高いのですが、過程はブラックボックスです。カストディの記事(B-10)の言葉を借りれば、これも「何を信頼して預けるか」の問題です。HLPに預けることは、Hyperliquidの運用チームの判断を信頼することと同じ意味を持ちます。

HLPは攻撃の標的になってきた

先ほどの表にあった2025年の損失には、共通のパターンがあります。流動性の薄い銘柄で大口ポジションを組み、価格を意図的に動かして自分のポジションを破綻させ、その損失をバックストップ清算経由でHLPに引き取らせる。ETHの事例、JELLY事件、POPCATの事例は、いずれもこの型でした。

JELLY事件では、バリデータ(ネットワークの検証者・B-12)の投票によって銘柄の上場廃止と強制決済が行われるという異例の対応が取られました。HLPの損失は結果的に回避されましたが、危機のときには運営側の判断で市場が止められるという前例にもなっています。守られた事実と、介入があり得るという事実は、同じ出来事の両面です。各事件の構造は第7章で詳しく検証します。

「ふだんの稼ぎ」が減っているという静かな変化

もうひとつ、事件のような派手さはないものの見逃せない変化があります。Hyperliquidの成長にともなって外部の専門マーケットメイカーが多数参入し、HLPは板の主役の座を譲りつつあります。平常時のAPRが低下している大きな要因です。

さらに、HIP-3(詳細はB-26)という仕組みで外部の開発者が独自のperp市場を作れるようになりましたが、これらの新市場の清算はHLPの担当外です。2026年に入ってHyperliquidの取引の伸びはHIP-3市場側で起きており、取引所が成長しても、その果実が自動的にHLPに入るわけではない構図がはっきりしてきました。TVLがピークから6割減ったという数字は、こうした変化に対する市場の評価でもあります。

まとめ:HLPは運用業務への出資にあたる

HLPが何をしているVaultなのかを見てきました。要点を振り返ります。

この記事のまとめ

  • HLPはHyperliquid公式のプロトコルVault。マーケットメイクと清算の受け皿という、取引所の中核業務を担う
  • 運用報酬はゼロ。利益も損失も、預けた持分の比率でそのまま分配される
  • USDC建てで、最後の入金から4日間は出金不可。経過後の出金は即時
  • 累積利益は約1.37億ドルだが、その約4割は2つの暴落イベントに集中。2026年8月時点の平常時APRは1%未満
  • 戦略は非公開。価格操作でHLPに損失を押し付ける攻撃も繰り返されてきた

HLPに預けるかどうかを考えるとき、確かめる点は3つあります。USDCを元手に「トレーダーの反対側に立つ業務」へ出資するのだと理解しているか。4日間のロックを許容できるか。そして、平常時のわずかな利回りと、荒れた日の大きな損益の振れという性格を受け入れられるか。3つに自分の答えが出せるなら、判断に必要な材料はそろっています。

次の記事では、個人トレーダーが運用するユーザーVaultとコピートレードを扱います。HLPとの違いも、そこで整理します。

本記事は情報提供を目的としたもので、投資助言ではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本割れの可能性があります。記載の数値は最終確認日(2026-08-13)のものです。

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