レバレッジをかけたポジションで本当に怖いのは、含み損が膨らんで強制的に決済される「ロスカット(強制清算)」です。
この記事ではHyperliquidで取引をする場合の前提知識として、ロスカットがどんな状態で起きるのか、何を基準に判定されるのか、そしてHLPとADLという独自の3層の清算システムまでを整理します。
読み終えるころには、自分のポジションがあと何パーセントの逆行で清算されるのか理解し、倍率や証拠金をどう調整するかを自分で決められるようになります
レバレッジ取引では、証拠金を担保にして、その何倍ものポジションを建てます。
相場が逆に動いて含み損が膨らみ、証拠金が一定の水準(維持証拠金)を下回ると、Hyperliquidがポジションを強制的に決済します。
損失がさらに膨らむ前に、ポジションを閉じて被害の拡大を止める役割です
Hyperliquidは、ポジションを評価する価格(後述するマーク価格)で含み損を測ります。
口座の有効証拠金が、銘柄ごとに決められた維持証拠金を割り込んだ瞬間に、清算の手続きが始まります。
国内の取引所では、相場の急変で損失が証拠金を超えると、不足分を後から払う「追証(おいしょう)」が発生することがあります。
最悪の場合、預けた以上の損失、つまり借金を負うこともあります。
Hyperliquidには、この追証の仕組みがありません。
後述する3層の清算システムが、足りなくなったポジションを引き受けるため、原則として、預けた証拠金を超える損失(借金)は負わない、ゼロカットのような保護として働きます。
ただし、清算時には維持証拠金の部分が戻らない設計とされています。
「証拠金を超えて失うことはないが、証拠金そのものは守られない」と理解しておくのが正確です。
追証のある国内と、追証のない海外やDEXは、どちらが良いというより、リスクの土俵が違うものとして捉えるのが安全です。
ロスカットが発動するかどうかは、2つの条件で決まります。
証拠金維持率が清算ラインを割ったか、そしてその判定にどの価格を使うか、です。
証拠金がどれだけ余裕があるかは、証拠金維持率で測ります。
基本の考え方は「証拠金維持率=有効証拠金÷必要証拠金×100」で、この余裕が一定の線(清算ライン)を割ると清算されます。
Hyperliquidの清算ラインは、その銘柄の最大レバレッジで決まります。
公式ドキュメントによると、維持証拠金は「最大レバレッジ時の当初証拠金の半分」とされ、最大レバレッジが3〜40倍の銘柄で、維持証拠金率はおよそ1.25%(40倍の銘柄)〜16.7%(3倍の銘柄)です。
倍率が高い銘柄ほど、清算ラインまでの余裕は小さくなります。
維持証拠金率が1.25%の銘柄を、分離(アイソレート)で建てた場合、価格がどれだけ逆行すると清算に近づくかの目安は次のとおりです。
| レバレッジ | 当初証拠金(目安) | 清算に近づく逆行幅の目安 |
|---|---|---|
| 5倍 | 20% | 約18.75% |
| 10倍 | 10% | 約8.75% |
| 20倍 | 5% | 約3.75% |
| 40倍 | 2.5% | 約1.25% |
これは維持証拠金率1.25%の銘柄を分離で建てた場合の概算で、実際の値は銘柄や証拠金の設定で変わります。
40倍では1.25%ほどの逆行で清算に達する一方、5倍なら18%以上の余裕があると分かります。
清算ラインは、証拠金の持ち方でも変わります。
分離(アイソレート)はそのポジションに割り当てた証拠金だけで判定し、他の資産を巻き込みません。
一方のクロスは口座全体の証拠金を共有するため、含み損を他の余力で支えられてすぐには清算されにくい反面、清算時には口座全体が危険にさらされます。
どちらも追証はありませんが、リスクの及ぶ範囲が異なります。
清算の判定には、最後に約定した価格(最終約定価格)ではなく、「マーク価格」が使われます。
公式ドキュメントによると、マーク価格は、複数の取引所の価格(オラクル価格)とHyperliquid自身の板の状況を組み合わせた、頑健な価格です。
一つの取引所の瞬間的なヒゲ(一時的な急変)や、板の薄いところを狙った価格操作だけで不当に清算されるのを防ぐ狙いがあります。
「表示価格は耐えていたはずなのに清算された」という食い違いは、この判定価格の違いから生まれます。
自分が見ている最終約定価格と、清算判定に使われるマーク価格は、一時的にズレることがあります。
Hyperliquidは、清算を3つの層で段階的に処理します。
まず板で売り、それでも閉じられなければHLPが引き取り、最後の手段としてADLで反対側のポジションを相殺します。
下にいくほど、めったに使われない非常手段です。
清算が必要になると、まずシンプルに、システムが板に成行の反対注文を出して、ポジションを閉じようとします。
板に十分な厚みがあれば、ここで決済が済み、残った証拠金は口座に戻ります。
公式ドキュメントによると、大口対策として、10万ドルを超えるポジションは、いきなり全部ではなく最初は20%だけを清算注文に出し、30秒のクールダウンを置きます。
板を一度に荒らして価格を大きく崩さないための工夫です。
クールダウン後もまだ清算が必要なら、残り全部が対象になります。
板でうまく閉じられないときは、ポジションがHLP(Hyperliquidity Provider)という専用の資金プールに引き取られます。これをバックストップ清算と呼びます。
公式ドキュメントによると、口座の有効証拠金が維持証拠金の3分の2を下回っても板で清算できなかった場合に、HLPを通じたバックストップ清算が起きます。
HLPは破産価格より少し手前の価格でポジションを引き取り、この清算では、ユーザーの維持証拠金は戻りません。
バックストップを平均的に成り立たせるためのバッファとされています。
HLPは、誰でもUSDCを預けて参加できる仕組みで、清算で生じた損益はプールの参加者(コミュニティ)に帰属します。
これはperp DEX 比較(B-3)で触れた「マーケットメイクの民主化」の裏側で、HLPは清算の最終的な受け皿でもあります。
その分、極端な銘柄の急変ではHLPに損失が生じることもあり、2025年3月のJELLY事件はその例として知られています。
板でもHLPでも処理しきれない極限の状況で動く最終手段が、ADL(自動デレバレッジ)です。
ADLは、HLPや隔離されたポジション口座の価値がマイナスになる(バッファと証拠金と含み益の合計が0以下になる)ときだけ発動する、危機時限定の仕組みとされています。
発動すると、反対側で利益が出ているポジションを、利益の大きい順(大口優先)に強制的に相殺し、システム全体の支払い能力を守ります。相殺される側は破産価格で決済され、利益自体は確定します。
ADLは意図的にめったに起きないよう設計されており、2年以上の運用で、クロス(フルマージン)でのADL発動は2025年10月11日のクラッシュ時が初めてとされています。
誰かの清算しきれない損失が他の参加者に連鎖して、システム全体が破綻するのを防ぐ、最後の安全弁です。
清算の仕組みが分かったら、最後に、清算を避けるために自分でできる3つのポイントを押さえておきましょう。
倍率を上げるほど、清算ラインまでの価格の余裕は小さくなります。
先ほどの表のとおり、同じ銘柄でも10倍なら約8.75%、20倍なら約3.75%、40倍なら約1.25%の逆行で清算に近づきます。
倍率を下げること、そして1回のポジションの大きさ(ロット)を抑えることが、清算を避ける最も基本的な方法です。
どこまでリスクを取るかは、表を参考に清算ラインまでの余裕を具体的な数字で確かめてから決めるのが安全です。
TP(テイクプロフィット、利確)とSL(ストップロス、損切り)をあらかじめ設定しておくと、強制清算より手前で、自分の意思で決済できます。
強制清算は維持証拠金が戻らないなど負担が大きいため、その前にSLで降りるほうが損失をコントロールしやすくなります。
ただし急変時には、SLが設定した価格どおりに約定しない(スリッページ)こともあります。
「損切りを置いたから安全」という油断は禁物です。
分離(アイソレート)では、そのポジションに証拠金を後から足すと、清算ラインが下がり、価格の逆行に耐えられる余裕が増えます。
ただし、足した証拠金も、そのポジションのリスクにさらされます。
耐えるために際限なく積み増すのは、損失を広げるだけになることもあります。
分離は1つのポジションのリスクを口座から切り分けられる点が利点で、清算ラインの調整はその範囲で考えるのが基本です。
Hyperliquidのロスカットは、証拠金が足りなくなったポジションを強制的に決済する仕組みです。
要点を整理します。
清算は、あと何パーセントの逆行で起きるかを具体的な数字で確かめてから、建てるか見送るかを決めるのが安全です。
清算の仕組みと避け方が分かったら、次はレバレッジ全体をどう管理するかです。
倍率の決め方やポジション管理の考え方を、次の記事でまとめて見ていきます。
▶ 次に読む:レバレッジのリスク管理(B-7)