SNSやニュースで「Hyperliquid」や「HYPE」の名前を見かけ、なぜここまで急速に支持を集めたのか気になっている方は多いはずです。
「VCに頼らなかった」「総供給の約31%をユーザーに配った」と聞いても、誰が、どんな考えで作ったのかという背景を知らないと、その意味はつかみにくいものです。
この記事では、創業者Jeff Yanの出発点から、FTX崩壊という転換点、Hyperliquidが市場の課題にどう向き合ったか、当時の通例とは異なる規模のエアドロップ、そして支持を集めた背景までを、誕生の歴史として順を追って整理しました。
読み終わるころには、Hyperliquidが支持を集めた背景を理解し、その出自をHYPEとどう向き合うかを考える材料として使えるはずです。
Hyperliquidの創業者はJeff Yan(ジェフ・ヤン)氏です。
2013年の国際物理オリンピックで金メダルを獲得した実績を持ち、ハーバード大学にてコンピュータサイエンスを学びました。
卒業後は、「Hudson River Trading(HRT)」にて高頻度トレーディング(HFT)のトレーダーとして経験を積みました。同社での経験は大きな影響を受けたと本人が語っており、低遅延システム、市場構造、流動性供給、取引執行の仕組みを学んだとされています。
Jeffは2018年頃にEthereumに関心を持ち、ホワイトペーパーを読んで「金融の未来になり得る」と感じたと語っています。HRT退職後、レイヤー2上の予測市場プラットフォーム構築にも挑戦しましたが、規制の不確実性やユーザー受容の低さにより失敗。この経験を通じて、単に分散型であるだけでは不十分で、ユーザーが本当に使いたいプロダクトであることが重要だと学びました。
HFTの現場では、注文がどれだけ速く正確に処理されるかが成否を分けます。その分野を知る人間から見ると、当時の分散型取引所(DEX)の動作の遅さは、本格的な取引に耐えるものではなかったとされます。少人数のチームで、外部資本に頼らず自分たちの手で開発を進めたとされる点も、後の方針につながっています。
Jeffが問題視していたのは、「速くて使いやすい中央集権取引所」と「透明で資産を預けない分散型取引所」が両立していない、という点だったとされます。
中央集権取引所は速く快適に使える一方で、利用者は資産を運営に預けなければなりません。これは分散管理という暗号資産の根本にある原則と真っ向から対立しています。
分散型取引所は資産を自分で管理できる一方で、動作速度や、流動性の問題から、本格的な取引に向きませんでした。
HFTの現場では、注文速度が数百万ドルの利益を左右します。その視点からすると、当時のDEXの動作の遅さは、本格的な取引に耐えるものではなかったと考えたのでしょう。
この速さと透明性のどちらかを諦めるしかない状況を解こうとしたのが、Hyperliquidの出発点だと説明されています。

FTXとは2019年にサム・バンクマン=フリード氏らによって設立された暗号資産取引所です。
当時はBinanceに次ぐ世界2位の取引高を誇っており、世界中のユーザーが利用していました。
そのような巨大取引所が2022年に破綻した事件は、Hyperliquidの設計思想を後押しした出来事だと言われています。
FTXが破綻する以前は、BinanceやFTXを中心とした中央集権取引所に資産を預けて取引するのが一般的でした。特にperp取引のような領域では、当時のDEXは速度やUX、流動性でCEXに劣っていたからです。
当時は中央集権取引所への信頼は圧倒的でした。業界のカリスマがCEOを務め、大谷翔平やクリスティアーノ・ロナウドなどの世界的スターが広告塔として起用されていて、「大きく有名な取引所なら安全だろう」という受け止めが、広く共有されていました。
一方で、その利便性の裏にあるリスクは、あまり意識されていなかったと言われています。ですが、実際には取引所に資産を預け、内部のリスク管理や資金の使われ方を信頼するしかない構造には、根本的な危うさが残っていました。
その不信を決定的にしたのが、2022年のFTX崩壊です。
FTXは当時、最も信頼されている暗号資産取引所の一つと見られていましたが、破綻によって、ユーザー資産の管理の実態が外部から見えにくい「ブラックボックス」のリスクが一気に表面化しました。
Jeffは以前より、分散型取引所が暗号資産市場で果たす役割に関心を持っていました。そして、FTXの崩壊によって、その重要性は一段と現実味を帯びることになります。
単に「ブロックチェーン上で取引できる」だけでは不十分で、ユーザーが自分の資産を管理しながら、CEXに近い快適さとスピードで取引できる環境こそが必要だと考えるようになったのです。
Hyperliquidは、「中央集権取引所の使いやすさと分散型の透明性の両立」「外部資本に頼らない設計」「ユーザーも流動性を出せる仕組み」という3つの形で、当時の課題に向き合おうとしたとされています
Hyperliquidが目指したのは、単なる分散型の取引所ではなく、中央集権取引所のような使いやすさや高速な取引体験を保ちながら、DEXが持つ透明性や自己管理の思想も両立させることでした。
そのためにHyperliquidは、取引に特化した独自のレイヤー1ブロックチェーンを構築しました。
それまでに存在していたチェーンでは速度・レイテンシー・スケーラビリティのどこかで妥協するしかなかったからです。
つまりHyperliquidの特徴は、分散型だから使うべきという理念先行ではなく、普通に使いやすいから選ばれる取引所を目指した点にあります。
トレーダーがストレスなく取引できる体験を作り、その裏側でオンチェーンの透明性を担保する。このプロダクトへのこだわりこそが、Hyperliquidを他のDeFiプロジェクトと分ける大きな要素になっています。
Hyperliquidのもう一つの特徴は、VCから資金調達を行わず、自前で開発を進めた点です。これは単なる美学ではなく、プロトコルの中立性を守るための設計思想でもあります。
外部投資家が大きな権益を持つと、プロダクトの意思決定がユーザーではなく投資家の利益に寄りやすくなります。
Jeffは、Hyperliquidを「誰もが使い、誰もが上に構築できる中立的な金融インフラ」にしたいと考えていたため、最初から特定のインサイダーが有利になる構造を避けました。
外部の投資家に先に大量のトークンを渡さない設計を選んだことで、その分が初期ユーザーへの配分に向けられたと評する声があります。
さらにHyperliquidは、流動性供給の面でも既存取引所と異なる設計を取りました。
その代表例が、HLPです。HLPは、Hyperliquid上でマーケットメイクや清算などを行うプロトコルの流動性ボールトで、ユーザーはそこに資金を預けることで、流動性供給に参加できます。
通常、マーケットメイクは専門業者や大口プレイヤーに限られがちです。しかしHLPでは、一般ユーザーもプロトコルの流動性を支える側に回ることができます。これは、取引所の成長によって生まれる価値を一部の内部関係者だけでなく、ユーザーコミュニティにも開く仕組みだといえます。
このようにHyperliquidは、FTX崩壊で浮き彫りになった課題に対し、高速なオンチェーン取引、自己管理、外部資本に依存しない運営、コミュニティ参加型の流動性供給という形で向き合っていきました。

Hyperliquidの思想がわかりやすく表れた出来事の一つが、HYPEのエアドロップです。
HYPEの総供給量10億枚のうち、31%にあたる3.1億HYPEがGenesis Distributionとして初期ユーザーに配布されました。
ここまでのアロケーションは他のプロジェクトのトークノミクスと比べても異例です。多くのプロジェクトでは、チームやVC、マーケットメーカーなどに大きな配分が行われ、ユーザーへの還元は限定的になるケースもあります。
その中でHyperliquidは、実際にプロダクトを使い、流動性や取引活動を支えてきたユーザーに大きな割合のトークンを配布しました。これは単なる話題作りではなく、プロトコルの成長に貢献したユーザーへ、ネットワークの所有権を渡す設計だったといえます。
多くのWeb3プロジェクトでは、TGE前後において多数のユーザーの離脱が発生し、トークン価格の下落が発生することが多いです。
一方でHyperliquidでは、TGE後であってもむしろユーザーやTVL、トークン価格が上昇し続けています。
この部分のなぜHyperliquidが使われ続けているのか解説します。
Hyperliquidが支持を集めた最大の理由は、エアドロップの期待だけではありません。多くのユーザーが評価したのは、取引所としての完成度の高さです。
従来のDEXは、透明性や自己管理の面では優れていても、取引画面の使いにくさ、約定の遅さ、流動性の薄さが課題でした。そのため、頻繁に取引するユーザーほど、結局はCEXを使わざるを得ない場面も多くありました。
Hyperliquidはこの課題に対して、最初から「トレーダーが日常的に使える取引所」を目指しました。注文板の見やすさ、取引のスムーズさ、ポジション管理のしやすさなど、プロダクトとしての使いやすさを徹底的に磨いた点が、他のDeFiプロジェクトとの大きな違いです。
HyperliquidがTGE後も開発が止まらず、エコシステムが拡大し続けている点です。
Hyperliquidは、単なるパーペチュアルDEXではなく、取引所機能を中核に置いた独自L1として設計されています。
HyperCoreではパーペチュアル取引や現物注文板が動き、HyperEVMによって、外部の開発者がアプリケーションを構築できる環境も整えられています。
さらに、HIP-3では外部のビルダーがパーペチュアル市場を構築できる仕組みが導入され、HIP-4では予測市場やオプションに近い取引を可能にするOutcome Tradingも実装されています。
つまりHyperliquidは、既存の取引所機能を磨くだけでなく、新しい金融商品や市場を作れる基盤へと進化しようとしているのです。
このように取引体験の向上、対応市場の拡大、新機能の追加が続くことで、Hyperliquidにはまだ成長するプロジェクトという期待が生まれています。

HYPEのエアドロップは、Hyperliquidがユーザーを重視するプロジェクトであることを強く印象づけました。
取引、流動性供給、HLP、エコシステム参加などが今後どのように評価されるのかは不明ですが、いわゆるSeason2への期待が、ユーザーの継続的な参加を後押ししている面があります。
また、Hypurr NFTのようなコミュニティ向け施策も、Hyperliquidの盛り上がりを支える要素です。
トークン報酬だけでなく、初期ユーザーに参加証のような体験を提供することで、プロダクトを中心とした熱量を生み出しています。
Hyperliquidの誕生がここまで支持を集めたのは、FTX崩壊で揺らいだ信頼に対し、創業者の問題意識を設計で形にしようとしたからだと言うことができるでしょう。
ただし、ここで見てきた出自の良さは、HYPEの将来の価格や安全性を保証するものではありません。
では、その設計は、先行するdYdXやGMXと何が違ったのか。次の記事で具体的に見ていきます。
▶ 次に読む:perp DEX比較(dYdX・GMXとの違い)