Hyperliquidと同じ仕組みでperp(無期限先物)を扱うDEX(分散型取引所)は、集計サイトが50社超を追う規模になりました。ところが順位表を眺めても、どこが大きいのかは集計元によって答えが変わります。
前回はCEX(中央集権型取引所)との比較を扱いました。今回はDEX同士の順位です。集計サイトDefiLlamaの2026年8月6日の集計で、Hyperliquidのシェアは出来高で約40%、建玉では約62%です(金額からの編集部試算)。2025年秋には一時1割まで下がったこともあります。
この記事で扱うのは、順位そのものより、順位表の読み方です。暗号資産の取引に元本割れの可能性が伴う点は、末尾でも触れます。
まず出来高(一定期間に売買された総額)です。DefiLlamaが2026年8月6日に集計する直近30日のperp DEX出来高は全体で約5,000億ドル、うちHyperliquidが約2,000億ドルで、編集部試算では約40%。以下はAsterが約8%、Lighterが約7%、ApeX Protocolが約7%、Grvtが約6%です。なお、2025年8月には約8割を占めていた時期があり(The Blockの集計)、2025年9月に約1割まで下がったのち現在の水準に戻しています。
同じ時期に別の数字も出回っています。blockchainreporterが8月5日に報じた7月分の集計は上位8社だけが対象で、そこでの比率は編集部試算で約53%。MetaMaskの8月4日の記事は「追跡されているperp出来高のおよそ3分の1」です。約33%、約40%、約53%が並ぶ差の主因は分母に何社を入れたかで、集計期間も7月分と直近30日で揃っていません。DefiLlamaは50社超を対象にするため、小さな取引所まで足すほど首位の比率は下がります。
もう一つの指標が建玉(決済されずに残っているポジションの総額。OIとも呼ばれます)です。同じ日の集計では全体が約177億ドル、うちHyperliquidが約109億ドルで、編集部試算では約62%。出来高シェアとの差は約22ポイントです。
差が生まれるのは、二つの数字が別のものを数えているからです。出来高はその期間に通過した量で、建玉はいま残っている量です。資金が置かれる場所として見るか通り過ぎる場所として見るかで、順位表は形を変えます。
| プロトコル | 30日出来高シェア | 建玉シェア |
|---|---|---|
| Hyperliquid | 約40% | 約62% |
| Aster | 約8% | 約11% |
| Lighter | 約7% | 約5% |
| ApeX Protocol | 約7% | 約0.7% |
| Grvt | 約6% | 約2% |
| Variational | 約5% | 約8% |
| edgeX | 約4% | 約1% |
DefiLlamaが2026年8月6日に公表している金額からの編集部試算です。同サイトが公開しているのは金額のみです。
Asterは、旧Binance Labsを前身とするYZi Labsが支援します。2025年9月下旬にはperp DEX全体の日次出来高が700億ドルを超え、Asterがその約半分を占めました(シェアは一時約7割に達したとする集計もあります)。2026年3月に独自チェーンのAster Chainが稼働し、ゼロ知識証明(取引の中身を明かさずに正しさだけを検証できる技術)とステルスアドレスで建玉を外部から見えなくする方向へ振りました。
Lighterは、オーダーブック(板)と証拠金計算のためだけに作られた専用のzk(ゼロ知識証明)ロールアップです。リテール利用者の取引手数料はメイカー・テイカーともゼロで、収益は高頻度取引業者向けの有料アカウントや流動性プールの取り分です。2026年7月1日にRobinhood Walletとの統合が稼働し、perp取引の収益を折半する取り決めが公表されました。Lighterを大手ヘッジファンドの系列とする紹介を見かけますが、創業者Vladimir Novakovski氏の前職がCitadelであるという経歴の話で、公表されている出資者にその名はありません(Founders Fund、Ribbit Capital、Robinhood Venturesなど)。
edgeXは、暗号資産金融のAmber Groupが支援するオーダーブック型です。手数料は2026年8月時点でテイカー0.038%・メイカー0.012%と、Hyperliquidの0.045%・0.015%を下回ります。2025年10月時点で公開されたポイント制度の配分設計では、洗い取引(自分で売って自分で買い、出来高だけを膨らませる手法)と自己売買はスコアから除外と明記されています。
ApeX Protocolは、zkLinkを介した複数チェーン対応です。出来高シェア約7%に対して建玉シェアが約0.7%と、前掲の表のなかでは両者の開きが際立っています。Variationalは、Arbitrum上のRFQ(見積依頼。板に注文を並べず、相手方に価格を照会して相対で約定する方式)型で手数料はゼロ、出来高6位に対し建玉は3位です。GrvtはzkSync Validium型で、機関投資家向けに自己管理との両立を掲げます。
Robinhood WalletとLighterの統合には、単独の提携にとどまらない意味があります。フィンテック企業が自社でperp DEXを開発せず、既存のDEXを執行の基盤に据えたためです。前回扱ったVALRの事例と同じ方向で、取引所を作る側と入口を持つ側の役割が分かれ始めています。この構図は後の記事で扱います。
B-3で扱った顔ぶれの現在地も添えます。dYdXの30日出来高は同日時点で約11億ドルと、Hyperliquidの約182分の1です(編集部試算)。GMXは2026年3月にCEOを公募したと報じられ、DefiLlamaの上位20位圏外です。
引き下げ競争の結果、Hyperliquidより安い取引所は複数あります。LighterとVariationalはリテールの取引手数料をゼロにしました。
ただし、価格の安さがそのまま順位に定着したわけではありません。Lighterは2025年12月にperp DEX出来高の約25%で首位でしたが、2026年8月には約7%です。edgeXの30日出来高は2026年1月に910億ドルと報じられ、8月のDefiLlama集計では約219億ドルです(集計元が異なるため比較には幅が必要です)。手数料の安さは模倣されやすく、利用者が別の取引所へ移る際の妨げにはなりにくかったと言えます。
もっとも、手数料ゼロは、Robinhood経由の収益折半のような別の収益源と組み合わせて成り立ちます。
ポイント制度の仕組みはB-24で扱いました。取引量に応じて付与し、後日トークンとして配布する設計には周期があります。Lighterは2025年12月末に約6.75億ドル規模の配布を行い、24時間以内に約2.5億ドルが引き出されたと報じられ、日次出来高は100億ドル超から20億〜40億ドルへ下がりました。Asterの週間出来高も2025年10月の約740億ドルから2026年3月中旬に100億ドルを下回っています。配布が終われば、その出来高を支えていた動機も終わります。
2025年9月から2026年3月に発行された7銘柄のうち5銘柄が発行時の価格を下回っているという集計を、2026年5月時点の記事で見かけます(単一の集計なので幅を持って読む必要があります)。CoinGeckoの同月のレポートは、上位の一部はポイント制度を持ち、配布が控えているとみられると記述しています。順位表の上位には、配り終えた側とこれから配る側が混在しています。
Hyperliquidの設計上の特徴は、板・約定・清算がすべてチェーン上で誰にでも見えることです。誰がどこに大きな建玉を持ち、どの価格で清算されるかも見えるため、その水準を狙って価格を動かせるとの指摘があります。
Aster ChainとParadexは、この点で逆方向に振っています。Starknet上で稼働するParadex(2026年8月時点でDefiLlamaの上位20位圏外)は、アーキテクチャの層から建玉の秘匿を実現しており、清算の狙い撃ちが成立しないと説明しています。CoinDeskは2026年4月、マーケットメイカー(常時売り買いの気配を出す業者)が取引手法を守るためにパブリックチェーンから離れつつあると報じました。透明性は検証可能性を生みますが、注文を出す側にとっては自分の手の内が他者に見えることでもあります。
手数料と技術で差がつきにくくなった結果、2026年の競争は取扱商品へ移りました。HIP-3(第三者がperp市場を開設できる仕組み・B-26)経由の出来高は、Hyperliquid全体のperp出来高の約2%(2026年初)から約50%(7月13日時点)へ上がったと報じられています。伝統的資産のperp出来高も、2025年通年の約1,042億ドルから2026年1〜5月で約1.32兆ドルへ拡大したとCoinDeskは記しています。
この分野をDEXが独占しているわけではありません。CoinMarketCapが2026年5月にまとめた集計では、株式perpの取引場所別シェアはBinance 32%、Bitget 21%、HIP-3 18%で、CEXとDEXの比率は72%対28%です。なお、Hyperliquidは米国のユーザーが利用できません。米当局の認可を得て米国内で提供するCoinbaseや予測市場のKalshiとは対照的な立場で、競争条件としての制約にあたります。
出来高という数字には、前述の洗い取引の疑いがかねて指摘されてきました。ただし、perp DEX全体の何%が洗い取引にあたるかという信頼できる推計は2026年8月時点で見当たらず、「何%が偽物」と書ける根拠は現時点では存在しません。
公開されている事例は、集計サイト側の対応です。DefiLlamaの創業者0xngmi氏は2025年10月5日、Asterのperp出来高を集計から除外しました。理由は、AsterとBinanceの出来高がほぼ完全に連動するチャートと、誰が注文を置き誰が約定させたかを検証できるデータがないことです。Aster側は、多くのトレーダーがヘッジにBinanceを使うため相関が出るのは自然だと反論しました。出来高は10月19日に再掲載されましたが、同氏は検証できない状態は変わらないと述べています。相関があることと不正があることは別の問題で、複数の取引所にまたがってポジションを持つ取引は正常な行為としても成立します。疑いが晴れたわけでも、認定されたわけでもない状態が続いています。
断定できない以上、読み手側が使える見方を持つほうが実用的です。順位表と併せて確認できる指標が4つあります。
①建玉を見る。出来高は同じ資金を何度も回せば増やせますが、建玉は資金を拘束しなければ増えません。前掲の表で、出来高シェアに対して建玉シェアが大きく下回るプロトコルほど、滞留している量は少ないことになります。
②回転率を見る。回転率(一定期間の出来高を建玉で割った値)は、資金がどれだけ頻繁に入れ替わるかの目安です。同日の数値から編集部が試算すると、Hyperliquidは約18、Variationalは約17、Lighterは約40、edgeXは約96、ApeX Protocolは約290。約290は、平均の保有時間が2.5時間を下回る計算になります(30日を290回で割ると1回あたり約2.5時間です)。高い回転率はマーケットメイカーやbotによる正常な高頻度取引でも生じるもので、それ自体が不正を意味するものではありません。建玉は時点のスナップショット、出来高は30日の累計なので、厳密な回転回数ではなく横比較の目安です。
③1アドレスあたりの出来高を見る。2026年1月のPhoenix Groupの集計(Bitget News掲載)から編集部が試算すると、1アドレスあたりの週間出来高はHyperliquidが約15.5万ドル、Lighterが約10.1万ドル、edgeXが約158万ドル、ApeX Protocolが約312万ドル(1ドル158円換算で約4.9億円)です。この指標も、少数のアルゴリズム取引業者が集中して使えば高く出るもので、それだけで結論は出せません。
④手数料の実効率を見る。これは手数料を取っている取引所どうしを比べるときに使える指標です。出来高が実際の取引を伴うなら、手数料収入も比例するはずです。同日の数値では、Hyperliquidの30日手数料 約5,029万ドルを30日出来高で割ると、実効約2.5bp(ベーシスポイント。1bpは0.01%)です(編集部試算)。当てはめられない例が、リテール手数料をゼロにしたLighterです。2026年5月時点の年換算収益 約2,650万ドルを同じ期間に換算した出来高で割ると約0.6bpにとどまります(編集部試算・算出期間が異なるため水準の目安)。手数料を取らない場所の出来高は、手数料からは裏づけを取りにくくなります。
順位表の上位にあることと、そこに資金を置いてよいことは別です。配布後に出来高が数分の1になった例は前節のとおりで、見えるのは直近の数字にすぎません。
板が薄い取引所では、決済そのものが成立しにくくなります。2026年7月24日に撤退を発表し、7月29日にperp取引を、8月13日にネットワークを停止したDangoは、停止の発表時点で建玉が約39万〜50万ドル、約6,200万〜7,900万円でした。創業者は資金不足や人員の流出を挙げ、持続的な商業的成功への道筋が見えないと説明しました。実装が済んでいても、板に参加者がいなければ取引は成立しません。
取引処理を1つの装置に集約した構成のチェーン(単一シーケンサ型)では、数時間の停止も起こり得ます。2025年10月の暴落局面では複数のperp DEXで数時間規模の障害が起きました(詳細はB-32)。順位表は平常時の数字であり、異常時に何が起きるかは示していません。
ここまでは比率の話です。もとになる市場全体の大きさは、2026年に入って見え方が分かれます。
年平均では、上位12のperp DEXの月平均出来高が2025年の約5,317億ドルから2026年1〜4月の約6,116億ドルへ約15%増えました。同じ集計で上位11のCEXは約7.11兆ドルから約4.69兆ドルへ約34%減っています。
一方で、月次のピークからは大きく下がりました。perp DEX全体の月間出来高は2025年10月の約1.36兆ドルから2026年3月の約6,990億ドルへほぼ半減しています。伸びているのは年単位で均した数字で、縮んでいるのは月次で追った推移です。月次では2026年6月に一度反転し、7月は再び減少しました。片方だけを引けば、正反対の印象になります。
つまり2026年のperp DEX市場は、全体が縮む局面で各社が比率を取り合う状態にあります。2026年5月には米CFTCが規制対象のクリプトperpを初めて承認し、Coinbaseも提供を始めました。競争相手はDEX同士にとどまらなくなりました。この動きは規制環境を扱う記事で取り上げます。競争の相手が広がる一方で、建玉の厚みと配布チャネルでは各社がHyperliquidに追いつけていません。この論点は競争優位を扱う記事で改めて見ていきます。
要点を振り返ります。
この記事のまとめ
順位表を見たときは、まず集計元と対象社数を確かめます。次に、出来高だけでなく建玉の欄も見ます。最後に、比べる数字の期間が揃っているかを確認します。この順で確かめれば、記事どうしが食い違う理由の大半は説明がつきます。なお、ここで挙げた指標はHyperliquid単体を継続的に追うためのものではなく、複数の取引所を横に並べるときの指標です。定点観測に使う指標はシリーズの最終回で扱います。次の記事では、伝統的な金融機関がこの市場にどう関わろうとしているのかを扱います。