2025年以降、PhantomやMetaMaskといった普段使いのウォレットの中で、Hyperliquidのperp(無期限先物)を取引できるようになりました。その裏側で動く「ビルダーコード」という言葉を見かけて、中身までは知らない方も多いはずです。
答えを先に言うと、ビルダーコードとは、外部アプリがHyperliquidの板(注文が集まる取引の場)にユーザーの注文を取り次ぎ、ユーザーが承認した範囲で手数料を上乗せして受け取れる公式の仕組みです。取引所そのものが、アプリ開発者の収益源になりました。
この記事では、その仕組みと、自分が誰に・いくら払っているのかを確かめる方法を見ていきます。特定のアプリを勧める記事ではありません。
ビルダーコードは、第三者のアプリ(以下、ビルダー)がユーザーの代わりに送信した注文の約定に対して、手数料を受け取れる仕組みです。Hyperliquidの手数料ロジックに組み込まれた、完全にオンチェーンの公式機構です(出典は公式ドキュメント)。
流れは単純です。ビルダーはユーザーの注文をHyperliquidの板に送る際、注文ごとに自分のアドレスと手数料率を示すパラメータを付けます。約定すると、その率に応じた手数料がビルダーに割り当てられます。板・流動性・約定処理はすべてHyperliquid本体のままで、変わるのは入口だけです。ユーザーから見ると、通常のHyperliquid取引手数料に加えてビルダー手数料を支払う形になります。置き換えではなく、上乗せです。
ビルダー手数料が課されるには、ユーザーが事前にApproveBuilderFee(ビルダー手数料の承認アクション)で「そのビルダーのアドレス」と「最大手数料率(maxFeeRate)」を署名して承認する必要があります。承認なしにビルダーが手数料を取ることはできません。実際に注文ごとに課される率は、この承認済み上限とプロトコル上限の範囲内でビルダーが指定します。なお、この署名はメインウォレットで行う必要があり、API用のエージェントウォレットでは実行できません。
押さえておきたいのは、承認するのは手数料の上限だけで、資金を動かす権限ではないという点です。注文自体には別途署名が必要で、承認によって資産の引き出しや取引が可能になるわけではありません。またこの承認はHyperliquid独自のアクションであり、EVMのトークン承認(ERC-20のallowance)とは別物です。両者を混同し、EVM系のリボークツールで管理できるとする不正確な解説がWeb上に見られるため、注意が必要です。
プロトコル側にも上限があります。perpは最大0.1%、スポット(現物取引)は最大1%です。スポットの上限はperpの10倍です。ただし、スポットの買い注文には、ビルダー手数料はかかりません。スポットの手数料は受け取る側の通貨で発生するため、買い注文では手数料がUSDCではなく購入したトークンで発生し、ビルダーの取り分の対象から外れるからです。上限が高い分、スポットで高い率が設定された場合の負担は大きくなります。この点は後述の注意点で改めて取り上げます。
承認の仕組みを表に整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 承認の対象 | ビルダーのアドレスと最大手数料率(maxFeeRate)。資金移動・取引の権限は含まない |
| 上限(perp) | 0.1% |
| 上限(スポット) | 1%(ただしスポットの買い注文は対象外) |
| 同時承認数 | 最大10件 |
| 取り消し方法 | maxFeeRateを0%で再署名すればいつでも可能(手順は後述) |
ビルダーコードは2024年10月1日(日本時間)に公式発表されました。発表文では、地域特化のフロントエンド、法定通貨の入金経路、モバイルウォレット、ソーシャルトレーディングが想定用途として最初から挙げられています。Hyperliquid本体が板と約定処理を提供し、使いやすい画面や新しい入口を作る仕事は外部に開放する。その開発者に、出来高に応じた収益の道を用意したのがこの仕組みです。
参加の要件は、perp口座の残高100 USDC以上であることなど、ごく軽いものだけです。審査も契約も不要で、誰でも参加できるパーミッションレス(許可不要)の設計です。
初心者が混同しやすいのが、リファラル(紹介プログラム)との違いです。リファラルは、既に発生している取引手数料の一部を紹介者に還元する仕組みです。ビルダーコードは、ユーザーが承認した上乗せ分をアプリ開発者が徴収する仕組みです。原資が既存手数料か上乗せか、受け取るのが紹介者か開発者か、という2点で別物であり、共通するのは報酬の請求プロセスだけです。
CEX(中央集権型取引所)にも、外部業者が顧客の取引を取り次いで報酬を得るブローカー制度があります。こちらは相対契約と審査が前提で、条件は非公開の場合が多いとされます。ビルダーコードは、参加条件も上限もオンチェーンの公開ルールで決まっており、ビルダーごとの収益も、ユーザーの承認状況も、誰でもオンチェーンで検証できます。ビルダーごとの約定データはCSV形式で公開され、承認状況は公式のInfo APIで照会できます。この検証可能性が、契約ベースの制度との決定的な違いです。
Hyperliquid界隈の「ビルダー」には2つの意味があります。ひとつは、本記事が扱うビルダーコードで手数料を得るフロントエンドやアプリ。もうひとつは、HIP-3(独自のperp市場を展開できる枠組み。詳細は第6章)で市場そのものを運営するデプロイヤーです。株価指数などのperp市場を展開するtrade.xyzは後者にあたります。両者は排他ではなく、HIP-3で作られた市場をPhantomなどのフロントエンドから取引することもできるため、2つの「ビルダー」は積み重なる関係にあります。
外部集計(Flowscan、CoinDesk報道)によると、ビルダーコードの累計収益は2026年7月末時点で約9,000万ドル(約142億円。1ドル=158円で換算。以下同じ)に達したとされます。2025年7月に累計1,000万ドル(約15.8億円)を超えたと報じられているため、最初の10カ月で1,000万ドル、その後の約1年で8,000万ドルを上積みした計算になります。統合したチームの数についても、公式が2026年5月時点で「100以上」と発言しています。
主要ビルダーを表で確認します。数値は2026年5月25日時点のスナップショット(外部集計のCoinGecko Research)で統一しています。
| ビルダー(主な形態) | 累計収益 | 累計出来高 | ビルダー手数料率(設定値) |
|---|---|---|---|
| Phantom(ウォレット) | 2,063万ドル | 394億ドル | 0.05% |
| Based(取引アプリ) | 1,506万ドル | 440億ドル | 0.025% |
| pvp.trade(Telegram上のソーシャル取引) | 795万ドル | 169億ドル | 0.038% |
| MetaMask(ウォレット) | 651万ドル | 74.6億ドル | 0.1% |
| Insilico(プロ向け執行ターミナル) | 331万ドル | 322億ドル | 0.01% |
| Infinex(取引アプリ) | 271万ドル | 50.4億ドル | 0.05% |
| Axiom(取引アプリ) | 227万ドル | 221億ドル | 0.01% |
| Tread.Fi(執行ツール) | 205万ドル | 99.8億ドル | 0.02% |
| Dreamcash(取引アプリ) | 170万ドル | 68.4億ドル | 0%(当時) |
| Mass(取引アプリ) | 138万ドル | 23.9億ドル | 0.055% |
この表が示すのは、同じHyperliquidの板で取引しても、使うアプリによって上乗せの実質負担が異なるという事実です。設定される率には0%からperp上限と同じ0.1%までの幅があり、出来高で首位のBasedが収益ではPhantomを下回るのは、この率の差によります。なお、この表はあくまで2026年5月25日時点の値です。別時点の外部集計(DefiLlama、2026年8月5日確認)では、Phantomの累計は約2,370万ドルまで伸びています(集計サイトによって対象範囲や更新頻度が異なるため、数値は一致しないことがあります)。最新値は外部ダッシュボードで確認できます。
時系列を事実として並べます。2024年10月1日に機能が発表され、2025年7月頃に累計1,000万ドルに到達しました。同じ2025年7月にはSolana系ウォレット大手のPhantomがアプリ内perp取引を開始し、同年10月にはMetaMaskが続きました。2026年7月には、南アフリカの取引所VALRがHyperliquidの流動性への接続を表明したと報じられています。累計収益の伸びがどの出来事にどれだけ起因するかを切り分けることはできませんが、大型ウォレットの統合と収益の加速が同じ期間に起きたことは、この並びから読み取れます。
B-14で見たとおり、Hyperliquidのプロトコル手数料はAssistance Fund(HYPEの買い戻し原資)などに配分されます。ビルダー手数料はこの流れの外側にある上乗せ分で、全額がビルダーの収入です。つまり、ビルダーの取り分はHYPEの買い戻しには使われません。ただし、ビルダー経由の取引でもベースのプロトコル手数料は通常どおり発生し、従来の配分先に流れます。ビルダーコードはプロトコル収益を分け取る仕組みではなく、その外側にもう一段の手数料を重ねる仕組みです。
エコシステム全体で見ると、ビルダーコードは取引の入口を外部アプリに広げる仕組みとして機能しています。アプリが自分の利用者をHyperliquidの板に連れてくれば、その出来高からプロトコル手数料も発生します。入口が増えるほど買い戻しの原資も増えるという期待は成り立ちますが、両者を直線では結びません。評価も分かれており、ビルダーへの分配を利用者獲得のコストとして整理する分析(2026年Q1の分配約1,740万ドルを同四半期のコストの大半とみなす外部統計)を見かける一方で、取引の入口を外部ブランドが握ることへの依存を論点に挙げる見方もあります。
承認画面で確認するのは、maxFeeRateの数字とビルダーのアドレスです。目安として、perpの基本テイカー手数料は0.045%前後(B-20)なので、0.05%の上乗せは取引コストがおおむね2倍になる水準です。取引の頻度が高いほど、この差は積み上がります。スポットは上限が1%と高いため、承認前に率を読む必要性はさらに大きくなります。同時に承認できるのは最大10件です。
過去に承認したビルダーは、公式Info APIのmaxBuilderFeeクエリで「どのビルダーに何%まで承認しているか」を照会できます。取り消しはいつでも可能で、maxFeeRateを0%に設定して再署名すれば、そのビルダーは以後手数料を付けられなくなります。取り消してもHyperliquid本体の口座や資産には影響せず、そのアプリ経由の取引ができなくなるだけです。承認済みの一覧表示や一括取り消しに対応したサードパーティツールもありますが、これらは公式の機能ではない外部サービスです。使う場合は、信頼できるかどうかを別途確かめてください。使わなくなったアプリの承認を放置しない、という点検の具体的な手順は、実践ガイドの承認管理の記事で扱います。
B-22で触れた偽サイトの手口は、ビルダーコードにも及び得ます。ビルダー承認そのものは資金を動かせない署名ですが、偽サイトが「ビルダー承認」と称して資金移動系の別の署名を求める攻撃は考えられます。求められている署名が本当にApproveBuilderFeeかどうかを確かめることが、この仕組みを使ううえでの自衛の基本です。
日本のユーザーとの関係も、事実だけ整理します。Hyperliquidの利用規約上の制限地域に、日本は含まれていません(2026年8月確認時点)。一方で、Hyperliquidおよび主要ビルダーアプリのperp機能について、日本の金融商品取引業者・暗号資産交換業者としての登録は、金融庁の登録一覧で確認できません(2026年8月5日確認)。国内の利用者保護の枠組みの外にあるという前提のうえで、利用の可否や条件は各アプリの利用規約で確認する必要があります。本記事は、いずれのアプリの利用も推奨しません。
ビルダーコードの仕組みと、使う側の確認手順を扱いました。要点を振り返ります。
この記事のまとめ
すでに外部アプリ経由でHyperliquidを取引したことがある場合は、承認済みの上限率を一度照会し、使っていないアプリの承認が残っていないかを点検してみる価値があります。これから使う場合は、最初の承認画面に表示される率とアドレスを読んでから署名する、という習慣づくりから始めるのが現実的です。次の記事では、Hyperliquidのエコシステムに定着したポイントとエアドロップの文化を扱います。