HyperliquidのVaultページを下へたどると、HLPの下に個人が運用する「ユーザーVault」が数多く並んでいます。目を引くリターン表示もありますが、その中身までは知らないという方に向けた記事です。
ユーザーVaultをひとことで言うと、「自分のお金を運用の上手い人に預けて、代わりに取引してもらう」仕組みです。預けたお金は運用者の口座にひとつにまとめられ、そこで出た利益や損失を、預けた金額の割合に応じて全員で分け合います。うまくいけば利益を受け取れますが、損失が出れば同じ割合で自分のお金も減ります。
この記事では、この仕組みが実際にどう動いているのか、かかる費用のルール、そして成績表示のどの数字をどう見ればよいのかを順に整理します。特定のVaultをすすめるものではありません。
ユーザーVaultには、運用を担う「リーダー」と、資金を預ける「フォロワー」(預入者)がいます。フォロワーが入金したUSDCはリーダーが管理するVaultの口座にまとめられ、リーダーがその全体を使って取引します。結果として出た利益と損失は、預けた金額の比率どおりに全員へ配分されます。持分1%なら、利益の1%を受け取り、損失の1%を負担する。この配分の考え方は、前回の記事(B-18)で見たHLPと同じです。
違うのは運用者です。HLPはプロトコルが運用する公式Vaultでしたが、ユーザーVaultのリーダーは一般の個人やチームです。なお、Vaultの名前と説明文は、作成時に一度設定すると後から変更できない仕様になっています。
コピートレードという言葉から一般に想像されるのは、上手いトレーダーの注文が自分の口座にそのまま複製される「ミラー型」です。ユーザーVaultの構造はこれとは異なります。自分の口座で同じ取引が再現されるわけではありません。資金そのものをリーダーの口座に合流させる、いわば資金合流型です。ポジションの管理も決済も、すべてリーダー側の口座で行われます。
ミラー型を使いたい場合は、Copin、pvp.trade、HyperXといったサードパーティツールがあります。ただし、これらはHyperliquid公式の機能ではない外部サービスです。使うかどうかは、それぞれの信頼性を別途確かめたうえで判断してください。以降で扱うのは、公式アプリ上のユーザーVaultだけです。
ユーザーVaultは誰でも作成できます。運用者としての経歴や実力を審査する仕組みはありません。作成の条件は、自己資金として最低100 USDC(約1.6万円)を入金することと、作成費用として10,000 USDC(約158万円)を支払うことの2つです(1ドル=158円で換算。以下同じ)。作成費用はプロトコルに支払われ、手元には返ってきません。この費用は当初は存在せず、2026年半ばに導入されたとされます。公式による目的の説明は確認できていませんが、結果として参入のハードルを大きく上げる設定です。
裏を返せば、この費用さえ払えば、運用経験のない人でも今日からリーダーになれます。審査の不在が何を意味するかは、後半のリスクの章で改めて扱います。
リーダーの報酬は、Vaultが生んだ利益の10%です。徴収されるのはフォロワーが出金するときで、対象はその人の入金額を超えた純利益に限られます。公式ドキュメントの数値例は、次のように整理できます。
損失が出ている間は何も引かれません。管理報酬のような固定費もなく、かかる費用はこの成功報酬だけです。途中の上げ下げを経ても、課金の基準はあくまで「自分の入金額を上回ったか」。預ける側に配慮された設計だと言えます。もっとも、報酬の設計が良心的であることと、運用の腕が良いことは別の問題です。
リーダーには、Vault全体の5%以上を常に自己資金で保有する義務があります。持分が5%を割り込むような出金はできません。Vaultが損失を出せばリーダーも同じ比率で損をするため、損だけをフォロワーに押し付けることはできない設計です。
一方で、この数字には対になる読み方もあります。残りの最大95%は他人の資金です。リーダーが自己資金で損失を負う割合は5%が下限であって、それ以上を入れている保証はどこにもありません。実際にどれだけ入れているかは、後述する自己持分の比率で確認できます。
フォロワーの資金には1日のロック期間があり、その間は出金できません。経過後の出金は即時で、待ち行列もありません。HLPの4日と比べれば短い拘束です。
ただし、ロックが短いことは安全を意味しません。第一に、ロックが明ける前にVaultが損失を出せば、その損失からは逃げられません。第二に、出金にあわせてポジションの縮小が必要になる場合、スリッページ(注文時の想定価格と実際の約定価格のずれ)が発生し得ると公式も明記しています。第三に、これは自分以外の出金でも起こります。少数の大口フォロワーに資金を依存したVaultでは、大口の出金ひとつでVault全体のポジションが縮小されることがあり、残った人の運用にも影響が及びます。
主要なルールを表にまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 預入通貨 | USDC |
| 預入者の最低額 | 公式の定めなし |
| ロックアップ | 1日(経過後の出金は即時) |
| リーダー報酬 | 利益の10%(出金時・純利益にのみ) |
| リーダーの義務 | 常時5%以上の自己保有 |
| 作成条件 | 自己資金100 USDC以上+作成費10,000 USDC |
もうひとつ、取引対象の制約があります。ユーザーVaultで取引できるのはバリデータが運営するperpのみで、現物と、HIP-3(B-18で触れたもの。詳細はB-26)の市場は扱えません。この制約が持つ意味は、後半の「旧世代」の話につながります。
各Vaultのページには年率や期間ごとのリターンが表示されます。最初に確認したいのは表示期間です。外部の集計サイト(tradingstrategy.ai)では、年率換算した値で数千%が並ぶこともあります。資金が小さく、期間が短く、レバレッジが高ければ、極端な数字は簡単に出ます。表示される年率は過去実績にもとづく数字とみられますが、算出方法の詳細は公式に明文化されていません。直近だけを切り取った数字を、そのまま将来に引き延ばして読まないことが出発点になります。
期間を全期間表示に切り替えて、損益(PnL)カーブの形を見ます。1回の急騰でほぼすべてを稼いだ形と、時間をかけて積み上げた形とでは、同じ累計リターンでも意味が違います。運用期間の短さも重要です。急落局面を経験していないVaultの成績は、良い相場しか映していません。
規模の感覚も持っておきたいところです。2026年8月時点で、ユーザーVault全体の預かり資産(TVL)は合計約8,100万ドル(約128億円)。大手でも数百万〜1千万ドル台です。Vaultの数は外部集計で数百規模とされますが、大半は預かり資産が数百〜数千ドル程度のほぼ空のVaultとみられます。預入者の一覧も公開されているため、少数の大口に依存していないかを確認できます。人気Vaultのなかには入金の受付を停止しているものもあります。最新の数値は公式のVaultページで確認してください。
そのうえで、2025年10月10〜11日を含む週のカーブは必ず見ておきたい箇所です。この時期に市場で何が起きたかはB-32で詳しく扱いますが、その前から運用しているVaultなら、この週の値動きへの耐え方に運用の性格が表れます。
ユーザーVaultの詳細ページでは、現在の全ポジション、過去の取引履歴、預入者の一覧までが公開されています。戦略の説明文はなくても、実際に何を売買してきたかは全部見えます。ここまで公開されている以上、公開情報を確認せずに預けるのはもったいない選択です。
対になる指摘もあります。ポジションが常に丸見えであることは、規模の大きいVaultが反対売買で狙われる余地になり得る、という見方です。透明性は預ける側の確認手段であると同時に、運用側にとっては付け入られる余地にもなります。
Vault一覧に並ぶのは、いま運用が続いているVaultだけです。損失を出して閉鎖されたVaultは一覧から消え、目に入る成績には表れません。消えたものを除いた成績だけで全体を判断してしまう偏りは、生存者バイアスと呼ばれます。上位に極端な好成績が並ぶのは、優れた運用者が多い証拠というより、高いリスクを取って生き残った少数が目立つ構造の結果でもあります。公式ドキュメント自身も、過去の成績は将来のリターンを保証しないと明記しています。
リーダーの立場から損益を見ると、負担する損失は自己持分(最低5%)に応じた分だけで、受け取る報酬は利益の10%に上限がありません。この組み合わせは、他人の資金でレバレッジを大きく張り、一度の当たりを狙う動機を生む構造でもあります。うまくいけば大きな報酬、失敗しても失うのは自己持分だけ。あくまで構造上の解釈であり、すべてのリーダーがそう動くわけではありません。ただし、戦略を事前に開示する義務はなく、運用方針を途中で変えることも自由です。フォロワーにできるのは、公開された取引履歴からの逆算だけです。
ここまで扱ってきたのは、公式アプリのVaultページに載っている機能です。公式のユーザーVaultでは、リーダーがフォロワーの預入金を直接引き出すことは仕組み上できず、リスクの経路は取引による損失に限られます。
混同しやすいのが、HyperEVM(B-9参照)上でサードパーティが提供する「Vault」を名乗るサービスです。2025年9月には、Hypervaultという第三者のサービスから約360万ドル(約5.7億円)の資金が持ち出されたとみられる事件が起きています。見分けの原則はひとつだけです。公式アプリのVaultページに載っているかどうか。名前に「Hyper」や「Vault」を含むことは、公式であることを何も保証しません。
2026年8月時点の公式ドキュメントは、本記事で扱ってきた型のVaultを「legacy(レガシー=旧世代)」と位置づけています。ここでいう新旧は動く場所の違いです。旧世代とは、取引所本体(HyperCore)の上で動く現行のVault、つまり公式のVaultページに並んでいるもの。新世代とは、HyperEVM上に新しく作られていくVaultを指し、今後の機能拡張はそちらで行う方針が示されています。現物もHIP-3市場も扱えないという先ほどの制約が、現行型が旧世代とされる理由です。とはいえ新世代への移行はまだ始まったばかりで、資金の大半はいまも現行のVaultとHLPにあります。「いま使われているのは旧世代、開発の軸足は新世代」という移行期にあると理解しておくのが安全です。
前回のHLPと本記事のユーザーVaultを並べると、次のようになります。
| 項目 | HLP | ユーザーVault |
|---|---|---|
| 運用者 | プロトコル | 個人・チーム(審査なし) |
| 損益の源泉 | マーケットメイクと清算の受け皿 | リーダーの裁量トレード |
| 戦略の透明性 | 戦略非公開・ポジションと損益は公開 | 戦略非公開・取引履歴と預入者まで公開 |
| 報酬 | なし | 利益の10%(出金時) |
| ロック | 4日 | 1日 |
| 規模(2026年8月時点) | 約2.2億ドル | 合計約8,100万ドル(上位数本に集中) |
本質的な違いは出資先にあります。HLPに預けることは取引所の運営業務への出資であり、ユーザーVaultに預けることは特定の個人の腕への出資です。業務は取引所が存続する限り続きますが、個人の好調がいつまで続くかは誰にも保証できません。HYPEステーキングやレンディングまで含めた運用選択肢の全体比較は、B-25で扱います。
ユーザーVaultの仕組みと、成績の読み方を確認しました。要点を振り返ります。
この記事のまとめ
預けるかどうかを考える場面では、確認の順番を決めておくと判断がぶれにくくなります。まず、PnLカーブを全期間表示にして、形と2025年10月10日前後の週を見る。次に、リーダーの自己持分、TVL、預入者の構成を見る。最後に、公開されている取引履歴から、そのVaultが何をして稼いでいるのかを自分の言葉で説明できるか確かめる。説明できないものには預けない、という見送りの判断も選択肢のひとつです。
次の記事では、Hyperliquidのスポット市場とHIP-1・HIP-2の仕組みを扱います。